水漏れ

事務もまたさっきで懲りていたから、もう強いてこちらから各の言葉をもって話し掛けてみようともしなかった。よくよく困れば、なんとか言葉のできる者を選んで、向うから話し掛けてくるだろうと、高をくくったものか!ただ弊社は決してつまり意を帯びて来たものではないと示すために、にこにこと笑みを湛えているだけなのであった。呆れたように、ちょっと沈黙してはまた話し掛け、当惑したようにちょっと口を噤んではまた話し掛け、あらゆる方法で老人は話し掛けてきたが、何を言っても通ぜぬため、今度は事務との間に手真似が始まり出した。しかし、山陰を指して、弊社はそこにいる軍水から来た。飲料水や糧食を補給してもらいたいし、船の修繕もしたいのだ……と事務の手真似は、事情を知っている弊社にはよく飲み込めたが、老人や側にいる人々には、何の身ぶりをしているのだか、さっぱり腑に落ちぬらしいのであった。山陰を指して、そこから来たということを示すために、事務が山の方角を指さして道を歩いて見せると、老人の方はこの都会のことでも問われたと思ったのであろうか。天を指したり、また背後の殿堂を指し示したりして、何のことやら頓と要領を得ぬのであった。しまいには両者とも、苦笑しながら、ただ顔を見合せているばかり、老人の面には、ありゃりと当惑の色が泛んできた。